資料保存事業事例紹介 国立療養所長島愛生園

岡山県瀬戸内市に所在する国立ハンセン病療養所である長島愛生園が所蔵する歴史的資料の脱酸性化処理及びその他の保存処置事業について、ご紹介します。なお同事業は、岡山県瀬戸内市が実施したふるさと納税「後世に伝えたい ハンセン病の歴史」(令和元年度)に寄せられた寄附金を財源として、令和3年度にNPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会によって実施されました。

神谷書庫に収蔵された長島愛生園機関誌「愛生」(昭和6年創刊)©キハラ株式会社
神谷書庫に収蔵された長島愛生園機関誌「愛生」(昭和6年創刊)©キハラ株式会社

今回の事業において保存処置の対象となったのは長島愛生園の歴史を綴る各種の紙資料で、これらは神谷書庫、愛生編集部、歴史館仮収蔵庫に保管され、ハンセン病に関する現存する貴重な資料群の一部です。いずれも大切に保管されてきた資料であるものの、長い年月を経て、酸性紙の脆弱化や製本の破損といった各種の劣化症状が見受けられました。

現物資料を1点ずつ確認する「状態点検作業」©キハラ株式会社
現物資料を1点ずつ確認する「状態点検作業」©キハラ株式会社

保存する重要性の高い資料から順に1点ずつ「状態点検作業」を現地にて実施し、資料の形態、材質、保存状態について記録しました。同作業では、紙資料が脱酸性化処理の必要な酸性紙かどうかを確認するとともに、傷んだ資料には補修処置を、形状が不安定な資料には保存容器の製作を併せて提案いたしました。

密閉性を高めた堅牢な資料輸送用コンテナ©キハラ株式会社
密閉性を高めた堅牢な資料輸送用コンテナ©キハラ株式会社

状態点検作業の結果を基に、脱酸性化処理をはじめとする各種の保存処置に係る費用を明確化し、優先順位等をご検討いただきながら処理対象となる資料251件が決定されました。続いて、キハラより専用のプラスチック製コンテナを長島愛生園様にお送りし、対象資料をキハラにご発送いただきました。なお、コンテナは調湿剤、害虫忌避剤、緩衝材、封印具を備えています。

和紙と正麩糊を用いた欠損箇所の繕い(簡易補修処置)©キハラ株式会社
和紙と正麩糊を用いた欠損箇所の繕い(簡易補修処置)©キハラ株式会社

工場に到着した資料のうち、劣化した資料には補修処置を実施しました。キハラでは、損傷した表紙や本紙を和紙と正麩糊で繕い、腐食したホチキスは取り除き、麻紐で綴じ直します。また、傷んだ上製本は鋸製本(ノコ目綴じ)によって再製本し、誰でも安全に利用できる程度まで補修します。

ブックキーパー脱酸性化処理の様子(水でもアルコールでも無い特殊な液体)©キハラ株式会社
ブックキーパー脱酸性化処理の様子(水でもアルコールでも無い特殊な液体)©キハラ株式会社

補修等の事前準備が整った酸性紙にブックキーパー脱酸性化処理を施します。ブックキーパーでは酸化マグネシウムが分散した処理液に資料を浸し、酸化マグネシウムを紙の表面に定着させた後に液体だけを気化させます。このようにして紙に残った酸化マグネシウムがゆっくりと紙を中和し、100年先まで紙の柔軟性を維持します。なお、使用している液体は化学的に不活性で、インクが滲んだり、紙が波打ったりしないきわめて特殊な液体です。

全ての保存処置が完了した紙資料の返却と確認作業©キハラ株式会社
全ての保存処置が完了した紙資料の返却と確認作業©キハラ株式会社

補修や脱酸性化処理をはじめとした各種の保存処置が完了した紙資料を輸送用のコンテナに収納し、返送いたしました。長島愛生園歴史館様では、到着した資料1点1点をご確認いただき、各資料はそれぞれの書庫に戻されました。

キハラではこのような歴史的資料の保存に必要な対策を整え、後世に伝えたい貴重な資料の保存に役立つサービスを提供しています。図書館や博物館における資料保存において引き続き尽力できれば誠に幸いです。

「国立療養所長島愛生園 所蔵史資料脱酸性化処理及びその他の保存処置事業」の概要については下記の報告書をご参照下さい。

岡山県瀬戸内市CF事業実施報告書

関連リンク

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